2010年02月03日

FXのレバレッジ規制

さて金融庁によるFX取引におけるレバレッジ規制がどのような段階を踏んで決定されてしまったのか、時系列に検証してみましょう。

金融庁によるFX取引きの際のレバレッジ規制が最初に世間の耳に触れたのは2009年の4月のこと、日経ネットによる「FX、投機的取引きに規制、金融庁、証拠金倍率(レバレッジ)20~30倍を上限に」と言うショッキングな見出しの報道でした。これはFXを実際に行っている投資家にも、またFX業者にとっても寝耳に水のニュースであり、しかもこの報道の続きには「証券取引等監視委員会が金融庁に制度改正を要請し、金融庁が金融商品取引法の関係政省令の改正作業に入る。

早ければ今夏にも導入の見通し」とあったものですから、実際薮から棒な一方的な規制と取られても仕方の無いようなものでした。

ではなぜ金融庁はこのような一方的な規制を行うことになってしまったのでしょうか。金融庁によればその理由としてあげられたのは「FXの高い証拠金倍率(レバレッジ)は過当投機であり、顧客が想定外の損失を被るおそれがある」ということでした。

しかしハイリターンの金融取引にリスクが付き物なのは当たり前のことです。ましてリスクがあることを承知しながらなおかつ事前の勉強不足で金融マーケットに足を踏み入れれば、少額の自己資金などは瞬時に蒸発するのは自明の理、このことを勘定に入れひいき目抜きで考えてもFXにばかり過保護な政策や規制を取ろうとしていると反発されてもしょうがないことと感じざるを得ません。


FXのレバレッジ規制に対する反応

案に違わず、金融庁が突然発表したFXのレバレッジ規制案に関しては国民レベルでの非難や疑問が殺到しました。

まず公の反応としては東京金融取引所の斎藤次郎社長が記者会見の場で「東京金融取引所が多なっているFXのレバレッジについては高い倍率に対する投資家の需要がある」とした上で米国のレバレッジ倍率が最大100倍であるなどの事例を引き、「FXのレバレッジ規制には慎重な議論が必要である」との見解を表しました。

またJPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏は、「以前の加速度的に進む傾向があった円高においては、それに対応するように反応するミセス・ワタナベなどの個人投資家の介入のおかげで急激な円高を阻む盾となっていた、(FXのレバレッジ規制が実施されれば)そうした急激な円高を阻止する盾がなくなり、円高のスピードが速まるリスクが高い」として警鐘を鳴らしています。

また肝心のFXの個人投資家に対して行った調査においてもレバレッジを規制することに対しては9割以上の人が反対し、もしFXのレバレッジ規制が実施された場合にはFXを止める(他の金融商品に移行する)と答えています。

この他にも反対意見は多く、日本銀行の西村清彦副総裁も、「日本の家計は存在感のある投資家であり、外国為替市場にも影響を与えている」、「東京の主婦たちが市場を安定させる役を担っているのは明らかである」と述べています。

こうしてFXのレバレッジ規制が取引の健全化なのか、あるいは公的な介入なのかをめぐって多くの議論が展開されました。

FXレバレッジ規制の決定

しかしこうした逆風も意に介することなく金融庁は2009年5月29日に規制案を公開し、7月31には早くも決定しています。その内容は、内閣府令交付2年後以降はFXにおけるレバレッジを25倍までとすると言うものでした。

さらに詳しく説明すると、FXのレバレッジに関しては2010年の夏までは経過措置として50倍、さらに1年後の夏からは25倍に規制を強化すると言うものです。

実は金融庁はこの発表と前後してパブリックコメントで、この案に対する国民の意見を募集していました。この結果は一般の人でもインターネット上から閲覧できるようになっていますので、興味がある人は検索などして探してみると良いでしょうが、多くの反響が寄せられているにもかかわらず、金融庁の回答は「初めに決定ありき」と言った印象の拭えないもので、実際には9割を超えた反対の声があったにもかかわらずそうした意見は無視された形となってしまっています。

金融庁の言い分に目を通してみると、
1.FXは証拠金を上回る損失が起る可能性があるリスクの高い取引であり、特に高いレバレッジの取引ではロスカットが十分に機能しないことによる被害を顧客が被る恐れがある。

2.FX業者のリスク管理として顧客の損失が証拠金を上回った場合には業者の財務の健全性に影響が出る。

3.過当投機である
となっています。これらの考え方はパブリックコメントに寄せられた意見のほとんどの対応の際に形や言葉を変えて言及されていますが、基本的な拠り所としてはこれら以外には何ひとつ変化していません。

FXレバレッジ規制へのパブリックコメント

では金融庁が行ったFXのレバレッジ規制に関するパブリックコメントに実際に寄せられた国民や投資家の意見を拾ってみましょう。

●FXの投資による損失は健全で自由な経済活動の結果であって、あくまでも自己責任であるためレバレッジ規制は不要である。

●FXの取引きにおける損失は投資家個人のリスク管理が負うべき問題であって、例えレバレッジ規制が敷かれても損をする投資家は必ずいる。

●レバレッジ規制によって資金効率は悪化し、投資の戦略が限定されてしまう。また当然の結果として高レバレッジを利用した際の利益と同程度の利益を得るためには多額の資金が必要となる。

●多くの人は高レバレッジで取引をしておらず、特に規制を設ける必要はない。資金が多く必要となるために、より高額の追加預託が強制されることにより、これまで以上に損失が生じやすくなる。

●むしろ現在必要なものは投資家に対する教育であって、レバレッジ規制ではない。

●レバレッジ規制によって取引量が減退することにより市場の衰退やFX業者の破綻を招く危険性が高くなる。

●レバレッジのみを単独に取り出して考えるべき問題ではなく、レバレッジの倍率とロスカットはセットとして考えるべきものである。

●投資家に元本超過損が生じた際にはFX業者が負担するようにすればレバレッジ規制は必要ない。

●高レバレッジによる取引きよりも低レバレッジによる取引の方が、想定元本を一定とした場合にはより多くの証拠金が必要となり、全額毀損した場合のリスクは大きい。
などなど、これらは寄せられた意見のまだほんの一部に過ぎません。

FXレバレッジ規制の弊害・投資家

金融庁によるFXのレバレッジ規制は決定してからと言うもの、FX業者に対して投資家からの悲鳴にも近い訴えや質問が相次いでいると言われます。
その中の多くの人が口を揃えて言うことは「これまで以上に多額の証拠金を用意する必要があるため投資が続けられなくなる」というものです。

これまでFXを影で支えてきた投資家の実態の多くはごく普通の家庭の主婦であったり、サラリーマンであったりと言うのが大半を占めていました。
なかには堅実に勉強や試行錯誤をくり返すことで相場の仕組みを理解し、わずかばかりの証拠金を元手に生活費用を捻出するためにFXを行っていたような場合も多くあります。

このようなFXの利用者にとって今回の金融庁による一方的なレバレッジ規制がどれほど影響が大きいものであったか察してあまりあります。
またFX取引きで忘れてはならないのがスキャルピングです。
スキャルピングは1分や2分と言ったごく短時間で投資を行うスタイルですが、こうした秒単位での取引をくり返すスキャルパーと呼ばれる投資家にとって、FXの100倍や200倍と言う高いレバレッジはなくてはならないものでした。

FXにおいてレバレッジ規制が敷かれることが決定されてしまった今となっては、今後こうしたスキャルピングなどで利益を上げることはほとんど不可能になります。つまり有力な投資の手段が根こそぎ失われてしまうことになるわけです。

ごくわずかな不勉強な投資家のために、圧倒的多数の健全な投資家の自由や投資方法が制限され、あるいは投資の機会そのものが奪われてしまうのです。

FXレバレッジ規制・業者の悲鳴

こうしたレバレッジ規制の状況にあっては多くの業者が淘汰され廃業するであろうことは簡単に予測できます。実は今回のレバレッジ規制と足を揃えるように2009年4月1日からはFX業者においては信託保全が完全義務化されたのです。

信用保全と言うのは万一FX会社が倒産した場合でも投資家の資金が保証されると言うもので、単純に投資家サイドから見た場合には恩恵と取れなくもありませんが、実は信用保全を行うためには各投資家の資金は信託銀行に預けられ、FX会社の管理下には一切資金が置かれることはなくなってしまいます。
FX会社では顧客の資金に手が付けられず、企業としての資金繰りがはなはだ難しい体質に様変わりしてしまいます。
またさらに追い討ちをかけるように信託保全の制度によってすべてのFX業者は信託銀行に手数料を支払う必要も発生してきます。この手数料は莫大な金額であり、大手のFX業者ならともかく、中小のFX業者に取っては死活問題ともなるべき困難な問題を押し付けられたことになります。

このような急激な改変によって負担を支えきれなくなったFX業者は淘汰され、遅かれ早かれ廃業してしまいます。FX業者の廃業は業者だけの問題で収まりません。
FX業者が廃業する際には顧客の取引であるポジションはその時点ですべて強制決済が行われる可能性が高いのです。
つまり強制決済が行われた時点で損失が多くある場合にはその損失を取り返すチャンスは失われてしまうことになるのです。
さらに前述した信託保全に関しても、完全義務化されたと言っても内情はFX業者によって様々であり未だ完全でない業者もいると言うのが事実です。
その場合には多くのFX業者とともに投資家もまたすべてを失なってしまう、と言う最悪のシナリオさえ浮かび上がってきます。

FXのレバレッジ規制は合法か

FXのレバレッジ規制をめぐっては投資家やFX業者のみならず、有識者や一般の市民をも巻き込んで大論争となっています。その中にはFXのレバレッジ規制そのものの合憲性を疑問視する意見さえあります。

そもそも憲法に則って解釈すれば、公共の利益を図る場合を除いては、特定の財産取引を行わせないもしくは事実上不可能にするような抑制を引き起こす公的規制は行ったとしても、憲法第29条によって定められている財産権を侵害することになり、例え法律を制定して行った上であっても違憲であり無効であるというのです。

ここではFXのレバレッジ規制が公共の利益を図ると言うことにあたるかどうかと言うことが議論の焦点となってくるわけですが、この場合もFXなどの取引きで一部の投資家に損が出ると言うことは、とりもなおさず一方で同等の利益を得ている投資家が存在しているわけで、公共の利益の観点からは中立な取引きであるとしか言い様がありません。

つまり公共の利益云々を持ってしてもFXのレバレッジ規制を正当化することは難しいと言うことになるのです。

またここではFX業界全体の自主規制や、あるいは効率課税などと言ったような事後抑制は言及されていません。
FX業者の監督や教育、また何よりも未熟な投資家に対する教育など、先に取るべき方法はいくらでも考えうるにもかかわらずレバレッジ規制のみを半ば強制的に行うと言うことは、今回の問題の根源を見誤ったと言わざるを得ず本末転倒でさえあります。

諸外国でのFXのレバレッジ規制

日本での今回の金融庁によるFXのレバレッジ規制に関しては、世論を無視したものである上に、ようやく不況の長いトンネルを抜けて活発になろうとし始めている商取引や金融取引に対する弊害も無視できず、本格導入に向けてまだまだ活発な論議が展開されるであろうことは必至ですが、では同じFX業界のレバレッジ規制に関して、アメリカなどの諸外国ではどのような対応がなされているのでしょうか。

実は今回のFXでのレバレッジ規制を受けるのは日本に拠点を置く日本のFX業者だけです。また日本人であっても海外の、よりリバレッジ効果の高い国でFXを行うことは可能です。最近では25倍と言う低倍率によって日本のFX業界を見捨てたスキャルパーなどによるこうした海外に拠点を置くFX会社での取引きがさかんに打診され、注目を集めています。

では海外のレバレッジ規制を見てみると、まずアメリカでもFXのレバレッジ規制は行われています。しかしアメリカでのレバレッジ規制は100倍までとまだ余裕があります。

またイギリスに目を転じると、こちらは何と無制限となっています。個人主義を何よりも重視するヨーロッパでは金融取引きに関しても自己責任の考え方が徹底していると言って良いでしょう。

その他にも効率の良いレバレッジで取引きを行える国は多くあり、これら海外のFX業者との仲介をする業者も続々と名乗りをあげています。

低倍率の日本のFX業界にしがみつくようにして薄利を得るよりもいっそ舞台を海外に移してより多くのチャンスを得ようとする投資家が増えつつあるのです。

FXレバレッジ規制とCFDの台頭

FXのレバレッジ規制が現実のものとなりつつある今、現在FXを行っている投資家は今後どのような道を選ぶことが考えられるでしょうか。

まずは前項でも述べたように海外に拠点を置くFX業者に乗り換えて高倍率のレバレッジでの取引きを継続するという方法が考えられます。
また日本のFX業界に残るとしてもこれまで高レバレッジで旨味を得ていた投資家などはトレードスタイルや手法を嫌でも見直さざるを得なくなるでしょう。

スキャルピングに代表されるような少額での短期勝負の手法は影を潜め、スワップ狙いなどの比較的おとなしい取引きに重心が移動することが考えられます。

また今後はFX業者自体の見直しや淘汰、統合などが急速に推し進められることでしょう。
投資家の欲望を満たせなくなったFX業者や、様々な政府による規制に耐えられるだけの体力のない中小のFX業者の中には撤退するものも現れるでしょうし、大胆な統合や再編も十分視野の中に入れておかなければなりません。

これからは投資する側もこれまで以上にFX業者を厳選しなければならなくなるのです。
また旨味の少なくなったFXに見切りをつけて他の金融商品に移行する投資家も多くの数にのぼると思われます。
中でもこれまでのFXの高レバレッジに慣れた投資家が最も注目・検討すると思われるのはCFDです。一部ではすでに大きな関心の的となっているCFDがFX業界の混乱に乗じる形で一気にメジャーな存在となる可能性は大いにあります。

何と言ってもCFDにはレバレッジに関する規制がまだ及んでいません。とは言え今回のFXのレバレッジ規制を見ているといつかはCFDと言えども厳格な管理下におかれる可能性はないとは言えませんが。

FXレバレッジ規制

金融庁によるFXのレバレッジ規制による弊害はまだまだたくさんの懸念材料があります。
これまで日本のFX業界では、一般の市民まで巻き込んでブームとまでなった勢いを追い風に、全国で約130社ものFX業者が活動していると言われます。

ここ数年のFXブームの中で各FX業者では様々な口座開設時のキャンペーンや、スプレッドの見直し、手数料の無料化などでしのぎを削り生き残りを図ってきました。

しかしここでFXのレバレッジ規制をはじめ、顧客から預かった証拠金のすべてを信託銀行に預けること、またロスカットルールの徹底と遵守など冷や水を浴びせられっぱなしのFX業界の中には生き残るために、せっかくいったんは無料とした手数料を有料に戻したり、スプレッド幅を大きく見直さざるを得ない業者が次々と出てくることでしょう。

高いレバレッジの楽しみも奪われ、手数料は有料、スプレッドは大きく、また証拠金は以前の何倍もの資金を用意することが求められる、果たしてそれで新たなFXのファンを育てて行くことが可能なのでしょうか。

FXという取引きはまだまだマーケットとして充実するべき端緒についたばかりであってこれからいよいよ充実していくものと考えられていました。そもそもリスクも高く、株取引などに比べると税制上も不利なFXを金融商品として育てるには業者の大きな努力や投資家に対する教育や地道な広報活動、また利用者の口コミや情報などの積み重ねが不可欠であったと言えます。

このような準備期間を経てやっと花開いたFXと言う庶民の夢に水をさすような金融庁のレバレッジ規制はどう善意に解釈しても説明不十分なものが残り、後味の悪い感じが拭えません。